Interview 015

Mari Kamio

Mari Kamio

刺しゅうを入口にして、
想像することの楽しさを伝えたい。

Apr 24, 2019

刺しゅうの魅力や惹かれた理由を聞く連載インタビュー。第十五回目は、刺しゅうをはじめ、テキスタイルによるプロダクト制作や企画など幅広く活躍する美術家の神尾茉利さんに登場いただきました。


――まず、神尾さんのものづくりの原点について聞かせてください。

小さな頃からずっと絵を描いてきました。油絵を習っていたこともあり、絵を描くことや工作が好きな子どもでしたね。祖母も母も手芸が得意で、私のものをつくってくれたりもしました。特に、祖母のセンスが変わっていたんです。ある日突然、髪の毛が紫になっていたこともありました(笑)。趣味で人形(写真上から3番目)もつくっていましたね。

その姿を見ていたから、やろうと思えばできる環境でした。フェルトを動物の形に切ってビーズをつけて、まわりを縫って綿を入れるマスコットのようなものは子どもの時からつくっていました。

高校卒業後、多摩美術大学の生産デザイン学科に進学しました。映画の衣装をつくりたいと思っていたので、テキスタイルの基礎を学んだのですが大学3年生の時に中退したんです。

衣装は物語がないとつくれません。その時に、物語から考えればいいんだと思ったんです。シチュエーションや登場人物、その人がどんなお洋服を着ているのかを考えてつくってみよう、と。それから、オリジナルの布や衣装をつくりたいと思うようになりました。

大学を辞めてから、自分が衣装ではなく演出という部分に興味があったことに気づきました。お洋服のかたちでなくてもいいんだなと思ったことがきっかけで、いろいろなものをつくるようになりました。大学では染めや織りを学んでいたのですが、辞めてからできる設備がなくなってしまい、針さえあればできる刺しゅうを始めたんです。

――針1本という、ひとつの道具でできることは刺しゅうの魅力ですよね。

昔から同じように続いている、すごくプリミティブな行為ですよね。刺しゅうを始めた頃に最初に頭に浮かんだのが、女の子の頭に動物がたくさんついていて、その子が動物とお話ができるという設定でした。なので、その頭についている動物をつくり始めたんです。そこから、「もし動物と話ができたら?」と問いかけるシリーズの「ひみつのはなし」が始まりました。

――それが初めての著書『ひみつのステッチ 刺しゅうで雑貨&小物づくり』(パイ インターナショナル)という本に繋がっているんですね。

そうですね。そこから「ひみつの」というフレーズをいろんなところにつけています。お話を通じて、問いかけるような作品になるように意識していて。言葉や絵を添えて、単純に「かわいい」や「きれい」だけで終わらないような、その先を想像させる仕掛けがしたいんです。想像することは楽しいし、プラスになるということを表現することが制作の原点です。見る人が普段暮らしていたら出合わないものと出合えるように、例えばかわいいものが好きな人がかわいいなと思って刺しゅうを見ていたら全然違うところにいた、というような。

――6月に新しい本を出版されるそうですね。

刺しゅうを入口にして、見る人を違う世界にもっと繋げていきたいという気持ちがあって。刺しゅうの本だけど、書店で刺しゅうの棚には置かれない一冊をつくりたいなと考えました。いくつかの小説から刺しゅうの描写を抜粋して、想像して私なりの解釈で図案化、その刺しゅうでつくったものを紹介するという本です。『刺繍小説』(扶桑社から6月に発売予定)と名付けました。

刺しゅうや編み物、料理の本は、つくる人に向けたものが多いですよね。なので、持っているだけだと意味が薄いと感じることもあって。私は編み物が得意ではなく、本を買ってもできなくて、本棚にしまいこんでしまうこともありました。そうではなく、刺しゅうをしない時も楽しめて、刺しゅうをしない人が読んでも、読みものとして成立している本にしたくて。描かれているものを想像しながら読む読書の面白さを紹介する本にできたらいいなと思っています。


Mari Kamio

1985年生まれ。刺しゅう・絵・言葉によるクライアントワークやテキスタイルプロダクト制作、インスタレーション作品の展覧会などで活動。“言葉を持たない物語”をコンセプトに刺しゅうで動物を表現する「ひみつのはなし」を2014年より本格化し発表の場を広げている。主な著書に『ひみつのステッチ 刺しゅうで雑貨&小物づくり』(パイ インターナショナル)『紙刺繍のたのしび』(BNN新社)『さがそ!ちくちくぬいぬい』(学研)などがある。6月に『刺繍小説』を扶桑社から刊行予定。

http://kamiomari.com